今回は、つい最近出た量子電子回路を用いたホーキング輻射1*の再現結果を説明します。これは、ジョセフソン素子を用いて回路上にポテンシャルを用いた擬似的なシュバルツシルト半径2*を作り出すことで、光子がそこから逃げられない状況を作り出し、そこから出る電磁波でホーキング放射を再現するものです。
・人工ブラックホールは回路上に再現可能。
・ホーキング輻射がトンネルで起こる様子が再現可能。
・しかし、これは実際に観測されておらず、ブラックホールのモデルも様々です。
ジョセフソン素子を図1のような回路に用いて、光子をとらえる電場ポテンシャルがブラックホールにおけるシュバルツシルト半径を再現するようにします。こうすることで、入射した光はブラックホールの内部で2度反射してからホーキング輻射として外に出るモデルでそれが再現出来ます。
図1のような回路をつなげていくと、ジョセフソン素子の位相ゆえに途中で光子を逃げられないようにトラップする電場が現れます。この回路は光子を本来の1/100の速度に落とします。この回路の中では光子はその中での限界速度を超えない限り電場から出られません。なので、この電場から逃れるにはトンネル効果しかありません。光子は電場の中で反射し、出てくる際には入射した状態とは違う状態になります。そうして、光子の群速度が大きくなるほどホーキング温度(ホーキング放射の温度)が高くなることが確認されました。しかしながら、これが体積に反比例するところまではまだ再現できていません。
ブラックホールについてはまだ謎が多く、ホーキング輻射も温度がひくすぎて観測されていません。ホーキング輻射における反粒子だけがシュバルツシルト半径に取り込まれ、ブラックホールを蒸発させていくというのもエントロピー増大則に合致するから正しいとされているだけであり、実際にはつい生成された粒子が同じだけ吸収されているのではないかとも推察されます。これはCP対称性の破れから導出されるかもしれませんが、私は素粒子にはあまり詳しくないため、まだわかりません3*。更に、ブラックホールの構造自体図2のように様々な説が提唱されています。(1)従来の特異点を有するブラックホール、(2)ド・ジッター描像の内部が存在しないブラックホール、(3)観測不能の高密度粒子が詰まっているとするモデルなどです[1]。この論文における結果は(1),(3)の描像におけるそれを再現するものです。しかしながら、この研究における課題はまだまだ多く、今後の発展が期待されます。
1*ブラックホールから出るとされる放射光と粒子の総称。約数ミリケルビン程度のため、観測は絶望的とされています。
2*光すら脱出できないほど空間がゆがみ、重力が大きくなる半径。ここでは一般相対性理論では時間が止まります。
3*超弦理論においては説明出来るようです。
Quantum-circuit black hole lasers | Scientific Reports (nature.com)
[1]Universe | Free Full-Text | Black Hole as a Quantum Field Configuration (mdpi.com)