hwakのトリビアルな雑記集

初めまして、個人研究者のhwakです。個人的に量子アルゴリズムの研究をしております。

「量子力学は、古典物理学だった」— MITが示した衝撃の数学的等価性

はじめに

「量子力学は直感的に理解できない」— これは、物理学を学ぶ者が最初に突きつけられる壁です。粒子が同時に2つの場所に存在し、観測するまで状態が決まらず、壁をすり抜ける。こうした量子現象は、私たちの日常的な物理的直感とは根本的に異なるものとして語られてきました。

しかし、2026年4月に Proceedings of the Royal Society A に掲載されたMITの研究が、この常識を根底から揺さぶっています。MITのJean-Jacques Slotine教授とWinfried Lohmiller研究員は、量子力学のシュレーディンガー方程式が、古典物理学のハミルトン・ヤコビ方程式と数学的に同一であることを厳密に示しました [1]。

つまり、量子の世界は「別世界の物理」ではなく、古典物理学の道具立てで完全に記述できる可能性があるのです。

古典物理学の「最小作用の原理」とは

この研究を理解するために、まず古典物理学の根幹にある最小作用の原理を確認しましょう。

ボールを投げると、ボールは放物線を描いて飛びます。なぜその軌道を選ぶのか? ニュートン力学では「力が加速度を生む」と説明しますが、もうひとつ、より深い記述方法があります。それが最小作用の原理です。

物体は、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの差(ラグランジアン)を時間で積分した量 —「作用」— が最小になる経路を選びます。この原理を偏微分方程式として書き直したものがハミルトン・ヤコビ方程式です。

古典物理学では、ひとつの初期条件に対してひとつの経路が決まります。ボールの軌道はひとつだけ。これが、古典と量子の決定的な違いだと長く考えられてきました。

シュレーディンガー方程式との「意外な同一性」

Slotineらの発見の核心は、次の一文に集約されます。

「シュレーディンガー方程式とハミルトン・ヤコビ方程式は、密度の適切な計算を行えば、実質的に同一である」

彼らが行ったのは、ハミルトン・ヤコビ方程式に2つの要素を加えることでした。

1. 複数の古典経路を考慮する

古典物理学では通常、ひとつの最小作用経路だけを考えます。しかし現実には、作用を最小化する経路が複数存在しうる場合があります。Slotineらは、この多価の古典的作用(multi-valued classical action)をすべて考慮に入れました。

2. 「密度」を導入する

ここが最も革新的な部分です。各経路に沿った粒子の存在確率密度を、古典的な流体力学の考え方で計算します。

Lohmillerはこれを水道のホースに喩えています。「二重スリット実験を考えてみてください。壁に向けてホースで水を噴射するとしましょう。水は2つのスリットを通り抜け、向こう側の壁で干渉パターンを作ります。壁のある場所に水が多く集まっている(密度が高い)ということは、その経路に水滴が存在する確率が高いということです」

この2つの要素 — 複数の古典経路と、各経路に沿った密度 — を組み合わせることで、シュレーディンガー方程式の解(波動関数)を厳密に再現できることを証明したのです。

ファインマンの経路積分との違い

「複数の経路を考える」と聞くと、リチャード・ファインマンの経路積分を思い浮かべる方も多いでしょう。ファインマンのアプローチでは、粒子はあらゆる可能な経路を「同時に」通り、それぞれの経路に位相を割り当てて足し合わせます。理論としては美しいのですが、計算上は「無限個のジグザグ経路」を扱う必要があり、実用的な計算は困難を極めます。

Slotineらのアプローチは、これとは根本的に異なります。二重スリット実験の場合、ファインマンの方法では無限個の経路が必要ですが、新しい方法ではたった2つの古典経路(各スリットを通る経路)だけで、同じ波動関数を正確に計算できます。

これは単なる近似ではありません。厳密な等価性です。

検証された量子現象

研究チームは、この古典的フレームワークが以下の量子現象を正確に再現することを示しました。

  • 二重スリット実験: 2つの古典経路と密度計算だけで、量子的な干渉縞パターンを完全に再現
  • 量子トンネル効果: 古典的にはエネルギー障壁を超えられないはずの粒子が障壁を通り抜ける現象を、古典的作用から導出
  • 水素原子の電子波: 水素原子中の電子の波動関数を古典的に計算
  • アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼン(EPR)パラドックス: 量子もつれの問題にも古典的枠組みで対応

さらに、この結果はシュレーディンガー方程式だけでなく、相対論的な量子方程式(クライン=ゴルドン方程式、パウリ方程式、ディラック方程式、マクスウェル方程式)にも拡張されています。

この研究がもたらすインパクト

量子コンピュータへの応用

量子計算のシミュレーションにおいて、波動関数の計算は本質的な課題です。もし古典的な最小作用の計算だけで量子状態を厳密に記述できるなら、量子シミュレーションの効率が劇的に改善される可能性があります。特に、ファインマン経路積分に基づく従来の手法が無限個の経路を扱う必要があったのに対し、有限個の古典経路で済むという点は、計算コストの大幅な削減を意味します。

量子力学と一般相対性理論の統合

物理学最大の未解決問題のひとつが、量子力学と一般相対性理論の統合です。両者は異なる数学的言語で書かれているため、統一が困難でした。しかし、量子力学が古典的なハミルトン・ヤコビ方程式で記述できるならば、一般相対性理論との接点が格段に見つけやすくなる可能性があります。

量子力学の「解釈問題」への新しい視点

量子力学には「コペンハーゲン解釈」「多世界解釈」「ド・ブロイ=ボーム解釈」など、さまざまな解釈が並立しています。今回の研究は、量子現象が古典的な確率密度の流れとして記述できることを示しており、量子力学の基礎に関する長年の議論に新たな視座を提供するものです。

慎重に見るべき点

ただし、この成果をもって「量子力学は不要」と結論づけるのは早計です。

まず、Physics Forumsでの専門家の議論では、Peter Morgan(イェール大学)がこの研究を「古典物理学の拡張によって量子物理学を正常化する数十年の努力への歓迎すべき貢献」と評価する一方で、いくつかの根本的な問題を指摘しています。

  • 文脈依存性(contextuality): 量子測定の結果が測定の文脈に依存するという性質を、この古典的枠組みが十分に扱えているか
  • 量子ノイズと熱ノイズの区別: 量子力学特有のノイズ(ゼロ点揺らぎなど)と、古典的な熱ノイズが異なるローレンツ変換性を持つ点
  • 解析的・非解析的周波数成分の役割: 量子場理論における正・負振動数の区別

また、この研究のarXivプレプリント(arXiv:2405.06328)は2024年5月に初投稿され、11回の改訂を経て2026年4月に正式出版に至っています。学術コミュニティでの検証はまだ始まったばかりであり、今後の追試と議論が不可欠です。

おわりに

「古典物理学と量子物理学は別世界だ」— 100年間の常識に、MITの研究チームは「実は同じ方程式だった」という回答を突きつけました。

もちろん、これで量子力学のすべての謎が解けたわけではありません。しかし、シュレーディンガー方程式という量子力学の根幹が、古典的な最小作用の原理と密度計算から厳密に導出できるという事実は、量子物理学の基礎を見直す重大な契機となりえます。

SlotineはMIT Newsのインタビューで述べています。「量子的な振る舞いを、非常にシンプルな古典的道具で計算できることを示したのです」

物理学の歴史は、一見異なる理論が実は同じものの異なる側面であったと判明する瞬間 — 電気と磁気の統合、時間と空間の統合 — によって前進してきました。今回の発見が、古典と量子の統合という物理学の新章を開くものになるのか。その答えは、これからの検証に委ねられています。


参考文献

[1] W. Lohmiller and J.-J. Slotine, "On computing quantum waves exactly from classical action," Proceedings of the Royal Society A, vol. 482, no. 2336, 20250413 (2026). DOI: 10.1098/rspa.2025.0413 / arXiv: 2405.06328

[2] MIT News, "New study bridges the worlds of classical and quantum physics," April 21, 2026. https://news.mit.edu/2026/new-study-bridges-classical-and-quantum-physics-0421

[3] Physics Forums Discussion Thread, "On computing quantum waves exactly from classical action." https://www.physicsforums.com/threads/on-computing-quantum-waves-exactly-from-classical-action.1084934/

   

70年信じられてきた超伝導の理論に、原子が「ダンス」で異議を唱えた

はじめに:100年に一度しか書き換わらない教科書

物理学の教科書のなかには、何十年も書き換わらないページがある。BCS理論(Bardeen-Cooper-Schrieffer theory) はそのひとつだ。

1957年に提唱されたこの理論は、超伝導という不思議な現象——金属を冷やすと電気抵抗がゼロになるあの現象——を説明する金字塔として、ノーベル物理学賞(1972年)を受賞した。あれから70年近くが経った今も、この理論は超伝導の入り口として世界中の学生に教えられている。

理論の核心はシンプルだ。電子は本来、互いに反発しあって独立に動いているのに、超伝導状態では2つの電子が「クーパー対(Cooper pair)」 という不思議なペアを組み、対同士はほぼ独立に、しかし全体としては足並みをそろえて流れていく。これが抵抗ゼロの正体だとされてきた。

ところが2026年4月27日、フランスのCNRSと米シモンズ財団フラットアイロン研究所のチームが Physical Review Letters に発表した論文 "Observing Spatial Charge and Spin Correlations in a Strongly-Interacting Fermi Gas"(Daix ら)は、その教科書のページに初めて疑問符を打った

クーパー対は、BCS理論が言うほど「独立」ではなかった。ペアたちは、互いに位置をうかがいながら協調して踊っていたのだ。

クーパー対とは何か——「氷上のダンサー」のたとえ

そもそも、なぜ電子がペアを組むと電気抵抗がゼロになるのか。

普通の金属では、電流とは「電子の流れ」のことだ。流れる電子は、原子の振動や不純物にぶつかって散乱され、エネルギーを失う。これが電気抵抗の正体である。

ところが極低温では奇妙なことが起きる。電子同士は本来クーロン力で反発しあうが、結晶格子の振動を介してわずかに引きあう力が働き、お互いに引き寄せられていく。一見ありえなさそうな話だが、実際にこの引力が反発を上回り、2つの電子がふんわりと結合した「対」 を組む。これがクーパー対だ。

このペアは、フェルミオン(電子のような半整数スピンの粒子)2つが組み合わさることで、ボソン的な性質を持つようになる。ボソンは同じ状態に何個でも入れるので、すべてのクーパー対がまったく同じ運動量で揃って動く「凝縮状態」に入る。一糸乱れぬ集団行進だ。一個を散乱で乱そうとしても、全員と戦わなければならない。だから抵抗がゼロになる。

BCS理論はこの描像を数学的に定式化し、各ペアは互いにほぼ独立で、自分の連れ合いの位置だけを気にしていればいい、と仮定する。ペアAとペアBは、すれ違うだけで影響を与えあわない、という意味で「平均場(mean-field)」近似が成立する——はずだった。

電子ではなく、原子で「電子のふりをさせる」

では、Daix らはどうやって BCS の予言を直接検証したのだろうか。

ここで登場するのが、近年急速に発展している 冷却原子量子シミュレータ(cold-atom quantum simulator) という実験プラットフォームである。

電子を直接見るのは、原理的にとても難しい。電子は速く、軽く、原子サイズの100分の1ほどしかない。クーパー対の「形」を直接撮影することは、電子相手にはほぼ不可能だ。

そこで彼らは、超伝導金属の代わりに {}^{6}\text{Li}(リチウム6)原子のガス を使った。リチウム6はフェルミオンで、しかもフェッシュバッハ共鳴(Feshbach resonance) という技術で原子間の引力の強さを実験者が自由に調節できる。電子と格子振動を介したクーパー対形成と、まったく同じ数学的構造を、実験室のテーブルの上に再現できるのだ。

しかも原子は電子よりはるかに大きく、はるかに遅い。1個1個の原子の位置を顕微鏡で直接見ることができる

量子ガス顕微鏡:原子1個ずつを撮る

実験チームが用いたのは 連続体量子ガス顕微鏡(continuum quantum gas microscope) という、ここ数年で完成したばかりの装置だ。

仕組みはざっくりこうである。

  1. 数十万個のリチウム6原子を、ほぼ絶対零度(ナノケルビンのオーダー)まで冷却し、ほぼ2次元の薄い層に閉じ込める。
  2. 観測の瞬間、間隔709 nmの三角格子レーザーで原子の位置をその場に「凍結」させる。
  3. 蛍光イメージングで、1個1個の原子から出る光を撮影し、位置を特定する。
  4. これをスピン↑とスピン↓の原子それぞれについて行い、スピン分解された原子配置の写真を得る。

これを約750回繰り返すと、原子同士がどのくらいの距離にどのくらいの確率でいるか、という相関関数(correlation function) が高精度で測定できる。

具体的には、

  •  g_{\uparrow\downarrow}(r):距離 r だけ離れた位置に、↑と↓の原子が同時にいる確率(対相関関数
  •  g_{\uparrow\uparrow}(r):同じスピン同士の相関
  • 三体相関:3つの原子が三角形に並んでいる確率

これらの形が、BCS理論の予言とどれだけ一致するか——これが今回の問いだった。

BCS理論が「禁じている」現象が見えた

結果は、衝撃的だった。

BCS理論によれば、対相関関数 [tex: g{\uparrow\downarrow}(r)] は常に1以上でなければならない。これは「ペアの中の↑と↓は引き寄せられているのだから、ランダムな配置よりは互いの近くにいやすい」という、ごく自然な要請だ。理論的にも厳密に [tex: g{\uparrow\downarrow}(r) \geq 1] が成立すると証明されている。

ところが実験では、ある特定の距離( k_F \cdot r \sim 2、つまりフェルミ波長の2倍程度の距離)で、 g_{\uparrow\downarrow}(r) が1を下回る「ディップ(dip)」 がはっきり観測された。

これは何を意味するか。

ある距離だけ離れた場所には、↑と↓の原子がランダム配置よりも来づらい——つまり、クーパー対と次のクーパー対の間に、「立ち入り禁止区域」のような空間構造が存在しているということだ。

ペアたちは独立に動いているのではない。互いの位置をうかがい、距離を取りながら配置されている。アイススケートのペアダンサーが、リンク全体で衝突しないように間合いを保っているのと似ている。

そしてこの「ディップ」は、BCS理論の数学からは絶対に出てこない。BCS が前提とする独立対描像を超えた、多体効果そのものだ。

モンテカルロ計算が、実験を裏付けた

「実験装置の問題ではないか」「観測のアーティファクトではないか」という疑問は当然出る。

そこで著者らは並行して、補助場量子モンテカルロ法(auxiliary-field quantum Monte Carlo, AFQMC) という、近似なしでフェルミ多体系を数値的に解く手法で同じ系を計算した。これは BCS のような平均場近似ではなく、相互作用の効果を厳密に取り込む計算手法である。

結果、AFQMC が予測した相関関数の形は、実験の「ディップ」をぴたりと再現した。BCS は外れ、厳密計算は当たった——となれば、もはや観測ミスではない。BCS理論が原理的に取りこぼしている物理が、確かに存在するということになる。

しかも著者らは、相互作用が弱い領域でもこの不一致が起きることを示した。これまで「強相関領域では BCS が破綻するが、弱結合では大丈夫だろう」と漠然と信じられてきた境界線が、ずっと手前にあったわけだ。

さらに驚いたこと:3体の情報は2体に「全部入っていた」

もうひとつ、彼らは三角形配置での三体相関関数も測定した。

直感的には、3つの原子の関係には「3体ならではの情報」があるはずだ。たとえば、ペアAとペアBが隣りあっているときに、3つ目の原子はどこに来やすいか——これは2体相関だけでは決まらないように思える。

ところが彼らの結果は、三体相関は2体相関の組み合わせで完全に説明できてしまった。少なくとも測定できた精度の範囲では、3体に固有の情報はなかったのだ。

これは多体相関の「情報量」を考えるうえで非常に示唆的で、量子多体系の効率的な記述(テンソルネットワークや繰り込み群)への手がかりになる可能性がある。

なぜこの発見が「分野に貢献する」のか

正直にいえば、この実験は明日の電力ケーブルを変えるわけではない。だが、長期的には分野の地図を書き換える仕事だと私は思う。

理由を3つ挙げる。

1. 高温超伝導の謎へのまっすぐな道筋になる

銅酸化物(高温超伝導体)の超伝導機構は、提唱から40年経った今も決着していない。BCS理論の単純な拡張では説明できないことだけは、誰もが認めている。今回観測されたような「ペア間の協調」は、まさに高温超伝導体で重要だと予想されている 擬ギャップ(pseudogap)ペア密度波(pair density wave) といった現象の前駆現象になっている可能性がある。原子で再現できれば、電子では届かない精度で機構を解明できる。

2. 「平均場の終わり」を直接見せた

物理学の理論はしばしば、近似に支えられた塔として建っている。BCS の平均場近似は超伝導という塔の土台のひとつだったが、今回の実験は「土台に明確な穴がある」ことを、近似ではなく観測で示した。これは理論物理にとって、新しい平均場を超える定式化を真剣に考えるべき時だ、という強いメッセージである。

3. 量子シミュレータが「真の物理」を出し始めた

2010年代まで、冷却原子は「電子の代わりに遊んでみる」教育的な系と思われがちだった。今回、冷却原子の系で見つかった現象が、実電子系の理論を否定するという構図になった。これは量子シミュレータが、電子の世界の未知を解くための信頼できる道具へと格上げされたことを意味する。同じ装置でハバード模型、フラストレート磁性、トポロジカル相を「実験」できる時代が、本当に来たのだ。

おわりに:理論はいつも、観測の前で謙虚であるべき

70年。BCS理論はそれだけの時間、超伝導の標準理論として立ち続けてきた。多くの応用——MRIの超伝導磁石、リニアモーターカー、量子干渉計(SQUID)——を生み、電気工学の根幹を支えた。

だがその理論の言語のなかに、観測に出会ってはじめて見える「死角」があった。ペアたちは独立に動いていなかった。互いの間合いを測りながら、空間に模様を描いていた

理論が偉大だからこそ、それをまっすぐ叩く実験には価値がある。Daix らの仕事は、超伝導という巨人の足元に、これまで誰も見ていなかった石畳の模様を見つけ出した、そんな仕事だと思う。

次にこの分野が大きく動くとき——たとえば室温超伝導の機構が決着するとき——きっと2026年4月の論文は、その伏線として読み返されることになる。


論文情報

  • [1] Cyprien Daix, Maxime Dixmerias, Yuan-Yao He, Joris Verstraten, Tim de Jongh, Bruno Peaudecerf, Shiwei Zhang, Tarik Yefsah, "Observing Spatial Charge and Spin Correlations in a Strongly-Interacting Fermi Gas," Physical Review Letters 136, 153402 (2026). DOI: 10.1103/2t2k-3ftx
  • [2] arXiv プレプリント:arXiv:2504.01885

参考

 

マヨラナ量子ビットが「読めた」— トポロジカル量子計算への扉が開く

はじめに

量子コンピュータの世界では、「量子ビットをいかに安定させるか」という問題が長年の難題です。その究極の解として理論的に予言されてきたのが、マヨラナ量子ビットです。

2026年2月11日、オランダのデルフト工科大学を中心とする国際チームが、その夢に向けた決定的な一歩を踏み出しました。マヨラナ量子ビットに蓄えられた情報を、初めてリアルタイムで読み出すことに成功したのです。この成果は、即日 Nature 誌に掲載されました [1]。

本記事では、この成果の背景と意義を解説します。

量子ビットが抱える「デコヒーレンス」という大敵

量子コンピュータが古典コンピュータを圧倒できる理由は、量子ビット(qubit)が「0と1の重ね合わせ」の状態を保持できることにあります。しかし、この繊細な量子状態は、温度・電磁ノイズ・機械振動といった周囲の些細な乱れで壊れてしまいます。これがデコヒーレンスと呼ばれる現象です。

現在の主流である超伝導量子ビットやイオントラップ量子ビットは、このデコヒーレンスと常に闘いながら、精巧な誤り訂正技術によってその影響を補償しています。非常に有効ですが、その分だけハードウェアの複雑さと規模が増します。

「最初から環境ノイズに強い量子ビットを作れば、話がずっとシンプルになるはずだ」— この発想から生まれたのがトポロジカル量子ビット、その核となるのがマヨラナゼロモード(Majorana Zero Modes; MZMs)です。

マヨラナ量子ビットとは何か

マヨラナゼロモードとは、特定の超伝導体の端に現れる特殊な準粒子です。この準粒子は「自分自身が反粒子でもある」という、通常の粒子にはない奇妙な性質を持ちます。

量子ビットとしてのマヨラナモードの最大の利点は、情報を「非局所的」に分散して保存することにあります。具体的には、ひとつの量子ビットの情報が空間的に離れた2つのマヨラナモードに分散して格納されます。情報がどこか一点に集中していないため、局所的なノイズがその情報を壊そうとしても、そもそも情報がそこにない、という状況になります。システム全体に同時に作用する大規模な乱れが起きない限り、情報は守られます。これがトポロジカル保護と呼ばれるメカニズムです。

マヨラナ量子ビットは、まさに量子情報の「金庫」です。鍵が特定の場所に存在しないため、その鍵を盗むことが原理的に難しくなります。

長年の「読み出し問題」

しかし、この「守られやすさ」は同時に「測りにくさ」でもありました。

情報が非局所的に分散しているということは、端点の一方だけを調べても量子状態が分からないということです。通常の量子ビット読み出しに使われる局所的な電荷センサーは、マヨラナ状態に対してはほとんど反応しません。マヨラナゼロモードのペアは電荷的に中性であるため、従来の測定手法では「偶数パリティか奇数パリティか」という本質的な情報が得られないのです。

「読めない量子ビットは、計算できない量子ビットだ」— この矛盾が、マヨラナ研究の前に長年立ちはだかっていた壁でした。

今回の実験:「量子キャパシタンス」による大域的読み出し

QuTechチームはこの問題を、量子キャパシタンス(quantum capacitance)という手法で突破しました。

研究チームはまず、最小キタエフ鎖(minimal Kitaev chain)と呼ばれる構造を製作しました。2つの半導体量子ドットを超伝導体でつなぐことで、その両端にマヨラナゼロモードを制御可能な形で生成できます。これは「レゴブロックを積み上げるように」部品ごとに組み立てる、モジュラーなアプローチです。

次に読み出しです。超伝導体にRF(高周波)共振器を接続し、電子が超伝導体内のクーパー対として移動できるかどうかを感知します。この「流れ方」はシステム全体のパリティ状態(偶数か奇数か)によって変化するため、局所センサーでは見えなかった情報を、系全体への大域的プローブとして取り出すことに成功したのです。

実験の結果は明快でした。局所的な電荷センサーがほとんど何も示さない動作点において、量子キャパシタンス測定は2つのパリティ状態(偶数・奇数)をシングルショットで明確に識別しました。

さらに重要な副産物として、ランダムパリティジャンプ(2状態間でランダムに切り替わる挙動)が観測され、そこからパリティコヒーレンス時間1ミリ秒超が計測されました。これは、将来のトポロジカル量子ビット操作に向けて非常に有望な値とされています。

何が新しいのか

研究の共著者であるFrancesco Zatelliはこう述べています。「これは、保護された量子ビットにこれまで欠けていた測定プリミティブだ」と。

これまでのマヨラナ研究では、「そもそもマヨラナモードが存在しているのか」という証明に焦点が当たっていました。今回の成果はそこから一歩先に進み、「存在しているマヨラナ状態の量子情報をリアルタイムで読み出す」という、量子計算の実用に直結する能力を初めて実証したものです。

2025年2月にはMicrosoftがMajorana 1チップを発表し、そのNature論文でも類似の読み出しが報告されていました。しかしQuTechの今回の成果は、より制御性の高いボトムアップ型の量子ドットアーキテクチャを用いており、個別の調整が可能で、さらに独立した電荷センサーによる検証が行える点が大きな強みです。

量子コンピュータへの意味

この成果が切り開く道は大きく2つあります。

ひとつは、誤り訂正の大幅な簡略化です。トポロジカル保護によってノイズ耐性が本質的に高いマヨラナ量子ビットを読み書きできるようになれば、現在の超伝導量子コンピュータが必要とする膨大な物理量子ビット数を大幅に削減できる可能性があります。

もうひとつは、スケーラブルな量子アーキテクチャへの道です。QuTechが採用したモジュラーな量子ドット鎖は、理論的にはより長い鎖へと拡張が可能であり、完全なトポロジカル保護を持つ量子ビットへの足がかりとなります。

なお、この成果は先に触れた同時期のNbRe三重項超伝導体の発見(2026年2月21日)とともに、量子材料の基礎研究とトポロジカル量子計算の実装が急速に収束しつつあることを示しています。

慎重に見るべき点

ただし、研究者自身も慎重な立場を崩していません。今回実証された最小キタエフ鎖(量子ドット2点)は、厳密には完全なトポロジカル保護を持つものではありません。Microsoftの Chetan Nayakも「パリティ寿命の延長がまだ示されていない」と指摘し、この量子ドット鎖アプローチが本当にスケーラブルなトポロジカル量子ビットへと発展できるかは今後の課題だとしています。

QuTechチームも、次のマイルストーンとして「コヒーレンスの実証」「マヨラナモードの非アーベル的な性質(フュージョン・ブレイディング)の実験的検証」を挙げています。ゴールはまだ先にあります。

おわりに

「測れないものは、制御できない」— 量子科学の世界では特にこの言葉が重みを持ちます。マヨラナ量子ビットを「初めてリアルタイムで読む」ことができたという今回の成果は、そのシンプルさとは裏腹に、トポロジカル量子計算が「理論から実装へ」という次のフェーズに入ったことを宣言するものです。

量子の冬と言われる現在でも、こうした着実な基礎実験が積み重ねられています。そのひとつひとつの成果が、いつか私たちが使える量子コンピュータを支える礎になっていくのでしょう。


参考文献

[1] Nick van Loo, Francesco Zatelli, Gorm O. Steffensen, Bart Roovers, Guanzhong Wang, Thomas Van Caekenberghe, Alberto Bordin, David van Driel, Yining Zhang, Wietze D. Huisman, Ghada Badawy, Erik P. A. M. Bakkers, Grzegorz P. Mazur, Ramón Aguado, and Leo P. Kouwenhoven, "Single-shot parity readout of a minimal Kitaev chain," Nature (2026). DOI: 10.1038/s41586-025-09927-7

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三重項超伝導体の「聖杯」が見つかったかもしれない — NbRe合金と量子コンピュータの未来

はじめに

量子コンピュータの研究において、最大の敵のひとつは「ノイズ」です。量子ビットはあまりにも繊細で、ほんのわずかな環境の揺らぎで情報が壊れてしまいます。この問題を根本から解決しうる「究極の素材」が、物理学者たちの間で長年にわたり探し求められてきました。

2026年2月21日、ノルウェー科学技術大学(NTNU)のJacob Linder教授のチームが、その夢に手が届いたかもしれないというニュースが世界を駆けました。ニオブ・レニウム合金(NbRe)が三重項超伝導体である可能性を示す実験結果が、Physical Review Lettersに掲載され、エディターズ・ピック(編集部推奨論文)に選ばれたのです [1]。

本記事では、この論文の内容を非専門家の方にもわかるように解説します。

超伝導体とは何か

超伝導体とは、ある温度以下に冷やすと電気抵抗がゼロになる物質のことです。通常の電線では、電流が流れるときに抵抗によってエネルギーが熱として失われます。超伝導体にはそれがありません。電流が損失なく永遠に流れ続けます。

この現象の鍵を握るのがクーパー対と呼ばれる電子のペアです。通常、電子はフェルミ粒子であり、同じ量子状態を共有できません。しかし超伝導状態では、ふたつの電子がペアを組み、あたかもひとつのボース粒子のように振る舞います。このペアが集団で同じ量子状態に凝縮することで、抵抗ゼロの電流が実現するのです。

一重項と三重項 — ペアの「スピン」が変える世界

クーパー対にはいくつかの種類があります。従来知られていた超伝導体のほとんどでは、ペアを組むふたつの電子のスピン(電子の自転のような量子力学的な性質)が互いに逆向きになっています。上向き(↑)と下向き(↓)が打ち消し合い、合計スピンはゼロになります。これを一重項(singlet)と呼びます。

一方、三重項(triplet)では、ふたつの電子のスピンが同じ向きに揃います(↑↑ や ↓↓)。合計スピンがゼロにならないため、このクーパー対はスピンの情報を運ぶことができます。

ここが決定的に重要な違いです。

  • 一重項超伝導体 → 電流だけを抵抗ゼロで運ぶ
  • 三重項超伝導体 → 電流とスピン電流の両方を抵抗ゼロで運ぶ

スピンは量子情報のキャリアでもあります。つまり三重項超伝導体は、「特定条件下では情報をエネルギー損失なしに伝送できる素材」となりうるのです。Linder教授が三重項超伝導体を「量子技術の聖杯」と呼ぶのは、このためです。    

実験 : 逆スピンバルブ効果

     研究チームはイタリアの共同研究者らとともに、Py/NbRe/Py という三層構造を作製しました。Py(パーマロイ)は強磁性体であり、スピンの向きをフィルタリングする役割を果たします。NbReをパーマロイで「挟んだサンドイッチ」のような構造です。   通常のスピンバルブでは、二枚の磁石層の磁化方向が平行のときに電気抵抗が低く、反平行のときに高くなります。ハードディスクの読み取りヘッドなどに使われている、よく知られた効果です。

ところが、NbReを挟んだこの構造では逆の振る舞いが観測されました。磁化方向が反平行のときに、むしろ超伝導が強まったのです。

これが「逆スピンバルブ効果」です。この現象は、NbReの内部に同じスピン方向を持つクーパー対(等スピン三重項クーパー対)が本質的に存在していることを示唆します。

特に重要なのは、この構造が極めてシンプルであることです。先行研究では、複雑に設計された界面を用いて人工的に三重項を誘導する手法がとられてきました。しかし今回の実験では、特別な界面工学なしに逆スピンバルブ効果が観測されています。つまり、三重項的な性質はNbRe自体に内在しているという主張です。

なぜNbReなのか

NbReが注目される理由は主に三つあります。

1. 非中心対称の結晶構造

NbReは、結晶を空間反転しても元の構造に戻らない「非中心対称」の結晶構造を持っています。この対称性の破れにより、スピン-軌道相互作用が強くなり、スピン一重項とスピン三重項のペアリングが自然に混合すると理論的に予測されていました。今回の実験結果は、その予測と整合しています。

2. 比較的高い臨界温度

NbReは約7ケルビン(約-266℃)で超伝導転移を起こします。これは日常感覚では十分に極低温ですが、他の三重項超伝導体の候補(約1ケルビン以下)に比べれば格段に「暖かい」温度です。実験が格段にやりやすくなります。

3. 薄膜としての成膜可能性

NbReは薄膜として成膜できるため、実際のデバイスへの実装が現実的です。論文の著者らも、NbReが「超伝導スピントロニクスのスケーラブルなプラットフォーム」となる可能性を強調しています。

量子コンピュータへのインパクト

三重項超伝導体が真に実現すれば、量子コンピュータへの応用は多岐にわたります。

超伝導スピントロニクス

スピン情報をエネルギー損失なしに長距離伝送できるため、量子ビット間の結合をより効率的に実現できる可能性があります。現在の超伝導量子ビットが抱えるデコヒーレンスの一因を、根本から排除しうる技術です。

マヨラナ粒子との関連

三重項超伝導体は、トポロジカル超伝導と深い関係にあります。トポロジカル超伝導体の端にはマヨラナゼロモードと呼ばれる特殊な準粒子が現れ、これを利用した量子ビット(トポロジカル量子ビット)は環境ノイズに対して本質的に頑健です。NbReが三重項超伝導体であることが確認されれば、マヨラナ粒子を実現するための新たなプラットフォームとなるかもしれません。

なお、同じ2026年2月に、デルフト工科大学のチームがマヨラナ量子ビットの読み出しに初めて成功したという論文をNature誌に発表しています。三重項超伝導体の発見とマヨラナ量子ビットの読み出し成功が同時期に起きたことは、トポロジカル量子計算が「理論上の夢物語」から「実験可能な現実」に移行しつつあることを感じさせます。

まだ道半ば

ただし、Linder教授自身が慎重な姿勢を崩していないことは記しておくべきでしょう。

他の実験グループによる独立した再現実験と、三重項超伝導性を直接検証するさらなる実験が必要だと彼は述べています。科学において「発見した」と宣言できるのは、複数の独立したグループが同じ結論に達したときだけです。現時点ではあくまで「強い示唆」にとどまります。

おわりに

量子コンピュータの実用化に向けた競争が加速する中で、その基盤となる物質科学のブレイクスルーが静かに、しかし確実に積み重なっています。NbReが本当に三重項超伝導体であれば、それは超伝導とスピントロニクスを橋渡しし、次世代量子デバイスの基盤となりうるものです。

量子の冬を嘆く声もありますが、こうした物質レベルでの発見こそが、春の訪れを告げる最初の一枚の花弁なのかもしれません。


参考文献

[1] F. Colangelo, M. Modestino, F. Avitabile, A. Galluzzi, Z. Makhdoumi Kakhaki, A. Kumar, J. Linder, M. Polichetti, C. Attanasio, C. Cirillo, "Unveiling Intrinsic Triplet Superconductivity in Noncentrosymmetric NbRe through Inverse Spin-Valve Effects," Phys. Rev. Lett. 135, 226002 (2025). arXiv:2510.08110

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論文紹介 : ボルンマシン

今回は、ボルンマシンについて解説します。

これは、 2017 年に現クォンティニュウム株式会社によってメインアイデアが発表され [ 1 ] 、その一年後に中国のグループが [ 2 ] 、その後さまざまな応用が公開され [ 3 ] 、一時期話題になりました。

これはボルツマンマシンの量子計算基盤と言える内容で、前者が物理系の熱力学的な状態確率分布を操作してロス関数の極小値を探すのに対し、後者は量子力学的な状態の分布でロス関数を計算し、その極小値を求めます。

ボルンマシンにおいて、計算するのは状態の期待値ではなくロス関数ですが、ほかはVQEと同様にアンザッツで任意の重ね合わせを作るだけです。

ロス関数は様々なものが考案されていますが、最も多く使われているのは下記の maximum-mean-discrepancy-loss (MMD-loss) function です。

\begin{equation}

 F =  {f} K  {f} +  {f^{aim}} K  {f^{aim}} - 2  {f^{aim}} K  {f}. \label{mmd}

\end{equation}

ここで、   {f}  は計算された状態確率分布、   {f^{aim}}  は目的とする確率分布、  K  はカーネルです。

この論文 [ 4 ] においては、アンザッツを時間発展演算子として、バーズアンドストライプスを計算しています。

これは、 4 量子ビット系において、量子状態が 0 , 3 , 6 , 9 , 12 , 15 の状態のみの均等重ね合わせです。

この量子ビットを正方形上に配置すると、これらの状態が 0 を黒、 1 を白としたときに単色あるいは棒状のパターンのみが出ます。

より一般的には、量子ビットが正方形状に二次元配置できる数であるときに、乱択された状態における均等重ね合わせを求める問題です。

これから投稿するにあたって、権利関係に抵触する恐れがあるため図を載せることは出来ませんが、高精度で目的分布が出ています。

このほかにも様々な分野でボルンマシンは応用されています。

例えば、ベイズ推定 [ 5 ] や生成モデル [ 6 ] などに応用されています。

今、量子情報分野自体が下火になり、量子の冬と呼ぶ方もいますが、それでも厳しい冬の寒さに負けずに有望な量子アルゴリズムを研究されている方は大勢います。

このボルンマシンとその応用もその一つで、今後の発展から目が離せない小領域です。

[ 1 ] M. Benedetti, J. Realpe-Gómez, R. Biswas, and A. Perdomo Ortiz, Phys. Rev. X 7, 041052 (2017).

[ 2 ] J.-G. Liu and L. Wang, arXiv e-prints , arXiv:1804.04168 (2018).

[ 3 ] B. Coyle, D. Mills, V. Danos, and E. Kashefi, npj Quantum Information 6, 60 (2020).

[ 4 ] H. Wakaura and A. Bayu Suksmono, arXiv e-prints , arXiv:2312.16432 (2023) .

[ 5 ] M. Benedetti, B. Coyle, M. Fiorentini, M. Lubasch, and M. Rosenkranz, Physical Review Applied 16 (2021).

[ 6 ] Ieva Cepaite, Brian Coyle, and Elham Kashe . arXiv:2011.00904 (2020).

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国際会議に論文が採択されました!

皆様、あけましておめでとうございます。   新年早々いいニュースを報告することになりました。   この度、国際学会である 11th International Conference on Computer Science, Information Technology (CSITEC 2025) に論文が採択されました。

既にアブストラクトを読める状態ですが、これからオープンアクセスでだれでも本文全文を読めるようになります。

この論文は、時間結晶を用いたノイズと共存可能な量子計算を提案し、その万能ゲート型と断熱量子計算における計算結果を示すものです。   結果、万能ゲート型においてはいくつかの改善点はあるものの、断熱型においては高精度の計算が可能であることが明らかになりました。 

これは、量子計算機と断熱量子計算機となる新たな量子計算の可能性を示すとともに、天然の量子計算機が存在する可能性を示すものです。  

https://necom2025.org/csitec/papers 

https://aircconline.com/csit/papers/vol15/csit150512.pdf

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楽園実験 : Universe 25

幼虫の身分に固執するべきだった

未完成にとどまり 進化を拒み 胎児の恍惚に包まれて

静謐の内に絶滅するべきだった。

エミール ミハイ シオラン / 生誕の災厄

生きるのって大変ですよね。不条理と理不尽まみれなのはここまで文明化されて、科学技術の進歩で生活には困らなくなったのに相変わらずで、格差の拡大で才能と財力に特段恵まれた人間以外はあるものまで根こそぎ奪われる。

水も食料も息を吸うことさえも無償ではできず、それどころか値上げでその値段すら上がってるのが現状ですよね。

こんな世界は誰かが終わらせて楽園を実現してほしいと願っている方も多いはずです。

あらゆる構成員の食料と水と空気と人権、そして健康が無条件に保証された社会の実現を願う方も多いはずです。

しかし、考えて頂きたい、それで本当に楽園が実現するんでしょうか。

それをマウスで検証した四年にわたる壮大な実験があります。

そう、知る人ぞ知る楽園実験 Universe 25 [ 1 ] です。

これはハツカネズミ ( 以降マウス ) を移住、天敵による捕食、水、食料の欠乏、場所の不足、伝染病をはじめとする病の五つの死因から無縁の環境におかれたマウスがどのような社会を形成するのか観察する実験です。

ユニバースと呼ばれた実験系にはメッキされた亜鉛版で移住は出来ないように壁が設けられ、それぞれのマウスには 256 の 15 匹が暮らせる 4 部屋の巣穴が用意され、水は最大二匹ずつ、食料は最大で 25 匹が同時に食べられるように巣穴に続く道の途中に、また温度は通年 22 - 33 度にとどまるように調節され、実験系は屋内でした。

さらにマウスは予防接種済みの個体を最初の構成員として用意しました。

この系は最大 3800 匹のマウスを問題なく収容し、水も 6800 匹を超えるまで不足しない・・・はずでした。

結論から言いますと、マウス達は本能的習性がことごとく裏目に出た末に自己破滅の道を辿りました。

実験開始からそれまでの 1780 日でマウス達は下記の過程で滅んでいきました。

A : 入植期

予防接種されたうえで育てられた健康な 21 日齢のマウスを実験系にオスメスそれぞれ四匹を投入するところから実験は始まりました。 そのマウス達は新しい環境に 104 日かけて順応し、繁殖を始めました。

B : 繁殖期 104 - 315 日

環境に適応したマウス達は繁殖をはじめ、その数は五日でほぼ倍になるほどでした。

このころからマウスの生息域と人工の分布に偏りが出始め、最大で 111 匹が暮らす縄張りと最小で 13 匹が多くの巣穴を占有する縄張りが出来、人口の増加速度も同様の差異が見られるようになりました。

C : 停滞期 315 - 560 日

このころになると、マウスの人口増加は突然鈍化し、異変が各縄張りに現れました。

各縄張りにおける社会的地位の世代交代により生じる空き数は新たに生まれてくる個体数を下回るようになり、結果世代間での社会的地位をめぐる闘争が発生し、それらは非常に激しいものだったようです。

本来、マウスは群れの人口が過密になり、社会的地位が埋まると余ったマウスは追放されて他で新たな縄張りを形成します。

この系では移住は出来ないため、各縄張りに所属していたうちの三分の二が系中央の床に集まり床で寝るようになりました。

食料と水は巣穴に向かうトンネルの中でしか手に入らないため、彼らはなわばりに侵入して食事をしなければならず、そのためなわばりの防衛についていたマウス達は階級闘争と元の同胞たちとの戦いをしなければならず、巣の防衛は間に合わなくなり、ついにはメスがその役目を負うようになり暴力的になっていきました。

そうして、メスたちは我が子を運ぶ際によく落とすようになり、流産率も上昇し、我が子にときに暴力を振るい、体毛が生えそろう生後一週間程度で巣穴から追い出すようになりました。

そして一方で、縄張りに残り社会的地位につき続けたオスも二匹以上が巣穴に戻るとそこに休んでいたオスがいる場合暴力を振るうようになり、結果暴力を振るわれたオスも他のオスに暴力を振るうようになりました。

マウスは穴倉に集団生活をし、親から近所づきあいなどの社会性を学び、成長するとオスにはなわばりの防衛あるいはボス、メスには妊娠出産子育ての役割が与えられ、オスの場合は社会的地位と伴侶の座を、殴り合い噛み合いのケンカで争います [ 2 ] 。

また、オスは攻撃を経験するとするされるにかかわらず攻撃的になり、ほかのオスを見るなり攻撃するようにもなります。

こうして母親には虐待され、オスには暴力と共食いのリスクから関われず、社会性を学ぶことなく育ったオスは他のマウスとの争いを避け、生殖行為も行わず食事と毛づくろいのみをして生きるようになりました。

彼らは論文内では beautiful ones ( 美しい人 ) と呼ばれています。

余談ですが、彼ら美しい人を他の実験系に移し、メスのマウスと暮らさせたところ興味を示さず、相変わらず毛づくろいと食事のみをしていたことが報告されています。

また同様の親に育てられたメスのマウスは流産率が極めて高く、最終的には正常な出産をしなくなりました。

D : 終末期 560 - 1780 日

入植から 560 日目に突然人口の増加が停止して、人口はそこから単調減少していきました。

この時残っていたのは親に虐待された世代のみな上に高齢化も進んでおり、それからオスが 1780 日目にして全滅することでこの実験系におけるマウスは絶滅が決定しました。

たとえどれだけ食料と水と十分なスペースを無償で与え、健康を保証しようとも遺伝子にプログラムされた本能は地獄のような環境に適応して最適化されていることがほとんどであるため、それが楽園に適応できずに格差や暴力を蔓延させ、最終的には種の自己破滅が到来するのはある意味当然の帰結と言えます。

最初に生誕の災厄から言葉を引用したシオラン氏も、人間は進化しすぎたから楽園が手に入らないと考えていたようですが、それはマウスも同じようです。

  人間でも旧石器時代に最適化された様々な形質故にいろいろな悩みを抱えている人も少なくありません。

例えば、うつ病や適応障害、ギャンブル依存症などがそうであるとされています。

世界の神話に始まり、様々な楽園が考えられてきましたが、結局人間自体を変えない限り楽園は実現しそうにはないようです。

真の楽園が欲しければ、それを享受する側も人間であることかあるいはそれ以前に生物であることを差し出す必要があるのでしょう。

存在は必ず悪夢を生み出す

ならば、存在よりはいくらかましなものを発明しようではないか。

エミール ミハイ シオラン / 生誕の災厄

[ 1 ] John B Calhoun , Proc R Soc Med. 1973 Jan;66(1 Pt 2):80–88.

[ 2 ] Itakura, Takumi et al. Neuron, Volume 110, Issue 15, 2455 - 2469.e8.

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