hwakのトリビアルな雑記集

初めまして、個人研究者のhwakです。個人的に量子アルゴリズムの研究をしております。

初心者向けMultiscale-Contracted VQEの解説【理論編】

2019年にQCWareから発表されて一時期話題になったMultiscale-Contracted VQE法の解説をします[1]。このアルゴリズムは、大規模量子系における励起状態を効率よく高精度に計算できることが示されています。 ハミルトニアンと基底をPauli演算子で表されること値に変換するのは他の手法と全く同じですが、エネルギー計算の手法がほかの変分量子アルゴリズムとは少し異なります。このアルゴリズムでは、Configuration Interaction State(CIS)を状態として使います。これは基底状態と、一電子励起状態の一時結合で、このうちのそれぞれの状態を共通のクラスターと変数で最適化します。

 

CIS状態は次のように表されます。

 

 

それを利用して、CISハミルトニアンの要素は次のようになります。

 

 

 

この式(2)を対角化することで、望む状態とそのエネルギー固有値を手に入れることができます。

 

リンクのスライドにも示しましたが、このアルゴリズムの流れは以下の通りです。

 

1, ハミルトニアンを論文の方法あるいはBravyi-Kitaev変換あるいはJordan-Wigner変換する。

 

2, 基底状態と一電子励起状態の和(CIS)を波動関数とする。

 

3, CISにおけるそれぞれの状態を変分量子計算の手法で同時に最適化する。

 

4, 計算された状態からCISハミルトニアンにおける非対角の項を計算する[2]。

 

5, CISハミルトニアンを対角化して、真の固有状態とそのエネルギーを計算する。

 

3,でCISのそれぞれの基底におけるエネルギー固有値の最適化は非対角項計算の前に行われ、その方法はSSVQEを使います[2]。次回は実際に水素分子で計算した結果を載せようと思います。この論文のすぐ後に一次、二次微分エネルギー固有値を利用して、励起状態の計算を行う論文が発表され[3]、QCWare社はこれを利用していくつかの研究成果を発表しています。変分量子アルゴリズムの方法論事態はすでに様々なグループがそれぞれのやり方であらゆる量子系に対応できる高精度なアルゴリズムを完成させており、あとは量子計算機の進歩を待つだけのようにも見えます。ただ、実際に量子計算機が進歩して、うまくいくのは他の方法かもしれません。QunasysやQCWare、ADAPT-VQEの開発グループのみならず、多くのグループが発展型VQEを提案しています。つまり、まだ、変分量子アルゴリズムはこれからです。

 

詳細スライド:

Multiscale-Contracted Variational Quantum Eigensolver (slideshare.net)

 

補足:詳細スライドの方では閉殻系しか扱えないとしましたが、BKかJW変換なら他も扱えます。ただし、大規模系の計算はその場合難しくなります。

 

[1] Parrish, R. M. and et. al., arXiv quant-ph:1901.01234v2(2019)

[2] Nakanishi, K. M., and et. al., arXiv quant-ph:1810.09434v2(2018)

[3] Parrish, R. M., and et. al., arXiv quant-ph:1906.08728v1(2019)

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