hwakのトリビアルな雑記集

初めまして、個人研究者のhwakです。個人的に量子アルゴリズムの研究をしております。

世界一わかりやすいVariational Quantum State Eigensolver(VQSE)【実践編】

この記事は、前回「世界一わかりやすいVariational Quantum State Eigensolver(VQSE)【理論編】」の続きです。

 

 世界一わかりやすいVariational Quantum State Eigensolver(VQSE)【理論編】 |

 

今回、VQSE法[1]を用いてblueqat SDKで水素分子における基底状態励起状態のエネルギーを計算しました。今回使用した古典最適化手法はPowell法計算反復回数は1000、評価関数の移動量が0.01以下になったら計算を終了します。使用したクラスターはUCCSDで、その深さ(回路の反復回数)は2としました。また、基底はSTO-3Gを使用しています。

基底状態、三重項状態、一重項状態、二電子励起状態におけるエネルギーをr=0.5から1.1の範囲で計算した結果を図1に示します。三重項状態は、多くの点で縮退した3状態における結果が少しずれています。

図1 基底状態、三重項状態、一重項状態、二電子励起状態の計算されたエネルギー準位。点線は厳密解です。

 

計算精度を見ても、基底状態と二電子励起状態が精度良く求められている反面、純粋スピン状態は精度が悪くなっていました(図2)。また、二重項状態においても、縮退した準位が正確に求められていない場合がありました。

図2 計算された各状態のSTO-3Gにおける厳密解との差の常用対数(対数エラー)。

 

三重項状態と一重項状態は二重項状態とエネルギー的に隣接しているため、初期状態として入力する基底の組と望む状態の縮重度が合っていない場合、本来縮重するはずの準位が他と混ざったり、順番が変わったりする可能性が考えられます。従って、縮重を考慮に入れた初期状態を入力しないと精度が向上しないと考えられます。実際に、原著論文では縮退の無い系のみを取り扱っています。

また、計算反復回数が足りないためであるとも考えられます。

 

このアルゴリズムは原著論文でも言及されているように、計算に関係ない準位まで計算しなければならず、そのために量子リソースを無駄に使用しています。それだけでなく、計算時間もそのため通常のVQEと比べて倍以上かかります。なので、計算する状態の数を減らして、なおかつ精度を維持しつつ計算時間を短縮することが、このアルゴリズムの今後の課題です。

 

[1] Cerezo, M., and et. al., arXiv quant-ph:2004.01372v1(2020)

 

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